飲食店、閉店するなら店舗譲渡を検討しよう
飲食店も、さまざまな理由で閉店を検討しなければならないことがあります。しかし、閉店するにも色々とコストがかかってしまいます。今回は、閉店の際のコスト軽減に役立つ、店舗譲渡についてご紹介します。
閉店するためのコスト
飲食店を開くときに、いろいろと費用がかかったように、閉店する際にもさまざまな費用が必要です。というのも、営業を終了してすぐ退去というわけにはいかないからです。
退去する意志を物件所有者・貸主に伝えてから解約予告期間が終了するまでは、実際に店舗を営業しているかどうかに関わらず賃料の支払い義務があります。レンタル、リース物件などがある場合には、解約するまで費用を支払う必要があります。特にリース物件を中途解約する場合には、かなりの違約金が発生することも珍しくありません。
さらに、閉店にかかるコストのなかで、おそらく最大の出費となるのが、原状回復費でしょう。原状回復とは、店舗物件の場合、原則としてスケルトン状態(建物躯体のみで、内装・設備等が一切ない状態)での賃貸借契約が前提となるので、内装・設備等の造作を全て処分し、コンクリートむき出しの状態まで戻すことが求められます。店舗が地下や空中階にある場合や、搬入搬出しにくい物件の場合、工事費がかさむこともあります。原状回復費だけで、坪あたり数万円から10万円くらいかかると言われています。
飲食店の譲渡とは?
飲食店の撤退を考えるとき、単に閉店させるのではなく、店舗譲渡や組織再編の方法を利用することで閉店にかかる費用を圧縮する方法です。いくつかご紹介しましょう。
造作譲渡
店舗の内装や厨房設備などを売却する方法です。いわゆる「居抜き」といわれるものです。手続きは比較的簡単ですが、物件所有者・貸主や不動産管理会社との協議が必要でしょう。
事業譲渡
事業の一部を売却する方法です。多店舗経営の場合には1店舗だけの売却などが可能です。資産や負債、契約関係などについて、包括的承継ではなく、個別承継することになるので、手続きが煩雑であり、一般的に合意を取らねばならない関係者も多いでしょう。
事業売却
事業すべてを売却する方法です。
飲食店を造作譲渡、事業譲渡・事業売却するメリット
造作譲渡や事業譲渡、事業売却を考慮したい理由には、以下のコスト的メリットがあります。
- 原状回復工事が必要ない
- リース契約を引き継いでもらえれば、違約金を回避できる
- 空賃料の期間短縮の可能性がある
- 対価が現金として手に入る
事業譲渡や事業売却ならば、従業員も引き継いでもらえる可能性があり、また、債権者保護のための官報の公告が必要なくなるでしょう。
譲渡の相場は?
造作譲渡の相場は、内装や厨房設備が新しければ高値が期待できるというものではありません。焼き肉店用の複雑な排気ダクトなどの設備は高値に評価される可能性がありますが、一般的に、立地、店舗の床面積と形、清潔感などが価格に影響を及ぼすといわれています。
事業の一部あるいはすべて売却する場合の価格には、上記のほかに、ブランド力、収益性、資産と負債、人材、ノウハウなども重要になってきます。つまり、開業後の売上が期待できると考えられる物件は高値がつく可能性が高いといえるでしょう。
正確な値が知りたいときには、実績のある専門業者に査定してもらうようにしてください。
事業譲渡、事業売却の流れ
事業を譲渡する、あるいは売却することが決まった後の大きな流れを簡単にご紹介します。
- 買主の選定と打診
- 買主との間で秘密保持契約の締結
- IM(Information Memoranddum)資料と呼ばれる事業の情報を買主側に提示
- 条件交渉などのための経営者同士の面談
- 買主側から、買収金額などが記された意向表明書が提示
- 基本合意書の締結
- 買収監査とも呼ばれているデューデリジェンスの実施
- 事業譲渡契約書の締結
- 臨時報告書の提出
- 公正取引委員会への届出書
- 監督官庁の許認可
- 移転手続き
株式会社の場合には、株式総会での特別決議や株主への公告などもあります。譲渡や売却に関わる諸々の契約書の作成については、後々のトラブルを回避するために専門家に見てもらうようにしましょう。M&Aアドバイザーに依頼する場合は、M&Aアドバイザーと細かく打ち合わせをしながらリスクが少ない書類を作成することができます。
造作譲渡の流れ
次に、飲食店の造作譲渡について、その流れ簡単に見てみましょう。
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- 造作譲渡を仲介する業者の選定、物件所有者・貸主や不動産管理会社との交渉、買い手探し
自分で買主候補を見つける方法もありますが、短時間で良質の買い手を探すには、居抜き物件専門の業者に依頼するのが1番です。そこで、まずは居抜き専門業者を選定しましょう。業者に 物件所有者・貸主や不動産管理会社との交渉を任せ、居抜き売却の了承をとってもらいます。そして、希望に合う買い手を探してもらいましょう。
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- 買主候補の内見
買主候補の誤解を招かないように、譲渡対象と引き上げるものを区別して見てもらうとよいでしょう。
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- 譲渡項目書の作成
どの什器や設備をいくらで譲るのか、明確にリストアップしたものです。レンタル物品やリース物件についても、契約を引き継いでもらわない場合には、店舗から引き揚げる旨を書いておくとよいでしょう。
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- 造作譲渡契約の確定と締結
契約は、専門の不動産業者など第三者の立ち会いのもとで締結しましょう。
- レンタル物品やリース物件などの引き上げ、不用品の廃棄処理
- 引き渡し
動作確認の後に引き渡し、契約通りの入金となります。
事業譲渡などに比べると手続きが簡便なため、飲食店業界では造作譲渡はよく用いられる手段となっています。
造作譲渡の際に注意しておくべきこと
最後に、飲食店閉店の際に広く使える造作譲渡についての注意点も見ておきましょう。
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- 物件所有者・貸主と不動産管理会社から了承を得ることが必要
賃貸借契約書に原状回復条項が含まれている場合がほとんどでしょう。それでも、物件所有者・貸主との交渉次第で造作譲渡が可能かもしれません。物件所有者・貸主が何を危惧しているかによりますので、実績のある居抜き専門業者に交渉をまかせるのがおすすめです。その場合には、物件所有者・貸主への解約予告のタイミングから考えてもらうことができますので、早めに居抜き専門業者に相談するとよいでしょう。
- 譲渡することに決めたら、決心を鈍らせない
「やっぱり止めた」となると、関係者に迷惑をかけることになります。しかし、一度は譲渡を考えたということは、いずれ閉店に至る可能性が高いので、本当に譲渡しなければならなくなったときに適切なサポートが得られない可能性があります。
- 情報は正確に開示
設備機器の不調や故障などは、売買に不利と考えられても正確に買主候補に伝え、後々のトラブルの種にならないようにしましょう。
- 契約書の内容には細心の注意を払う
種々の契約書は、事前に専門家に目を通してもらって、不必要なリスクを負わずにすむようにしましょう。
賃貸借契約書の確認から始めよう
閉店の文字が頭をよぎったら、まず、賃貸借契約書の内容を確認しましょう。解約予告期間や原状回復条項、特約などは契約書によって異なるため、契約内容をよく確認し、それから手立てを検討しましょう。
閉店にもいろいろな手続きが必要であると同時に、コストもかかってきますので、手間も時間もコスト的にも効率よく進むように、閉店準備に時間をかけ、損失が最小限になるように検討していきましょう。