飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店廃業の場合の確定申告は?未償却分の減価償却費はどうなる?

飲食店を閉店、廃業するためには、開店時と同様、さまざまな手続きが必要です。さらに、廃業した年の確定申告はどうなるのか、心配に思う人も多いでしょう。赤字廃業であっても確定申告が必要なのか? 廃業後のあと始末のための費用はどのように扱うべきなのか、減価償却費のうち、償却が終わっていない費用はどうするのか、疑問はいくつも浮かび上がってきます。そこで今回は、個人事業主の飲食店廃業時の確定申告についてご紹介します。

廃業年の確定申告は?

国税庁の説明によれば「所得税法では毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、所得税を納付することになっています」とのことです。
いつ廃業したとしても、その年に税務上の所得(益金から損金を引いた所得金額)があれば、確定申告が必要です。廃業年の翌年の2月16日~3月15日に申告します。
65万円の青色申告特別控除によって所得税額がゼロ円になる場合も、確定申告しなければ控除が適用されませんので、期限内に確定申告することを忘れないようにしましょう。

赤字廃業の場合には?

税務上の所得がマイナスの場合には、納めるべき税金が発生しないため、確定申告をする必要はありません。
ただし、廃業した事業以外にも事業を経営していたり、会社員になったりした場合には、確定申告を行うと、廃業した事業で発生した赤字を、それらの所得において控除することができます。「損益通算」と呼ばれ、最大3年間にわたって赤字を繰り越すことが可能です。廃業で青色申告を取りやめたのであれば、白色申告で手続きを行うことができます。
なお、廃業した事業に関する確定申告は、企業に就職していたとしても、自分で行う必要があります。給与の源泉徴収票をもらって、手続きしましょう。
また、赤字廃業であっても、その後の給与所得が2,000万円を超える場合には確定申告が必要です。
医療費控除や寄付金控除、雑損控除などを受けたい場合にも、控除申請のためには確定申告が必要です。

事業廃止後に生じた必要経費は?

事業所得を計算する際に、必要経費に算入できるものについて「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」と、国税庁では説明しています。
廃業した場合については、「法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》関係」が適用になり、廃業届を出したあとに発生した店舗クリーニング費用、設備廃棄処分費用、従業員への退職金なども必要経費として計上することができます。
ただし、通常は必要経費として計上できるものであっても、特例として認められない場合があるということなので、所轄の税務署に相談することをおすすめします。

特例を利用する場合のポイント

特例としての必要経費を参入させることができるのは、廃業年、あるいはその前年となります。廃業が年初頭であり、その年の所得がほとんどないといったように、廃業年で控除しきれない場合には、前年にさかのぼって必要経費を参入させることができます。
手続きのための「所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」は、記載要領も含めて、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
提出時期は「それらの事実が生じた日の翌日から2月以内に提出してください」とのことですが、前年分に参入したい場合であっても「当該必要経費に算入すべき金額が生じた日の翌日から2月を経過する日」が、廃業年の分の確定申告書の提出期限前である場合には、その提出期限までに更生の請求書を提出すればよいとされているため活用しましょう。

確定申告における減価償却費の扱い方

廃業した際の確定申告における減価償却費の処理の仕方についても見ておきましょう。

廃業年の減価償却費は営業月数による

年度初めである1月から廃業した月までの月数分は、減価償却費として通常どおり計上することができます。

未償却分は処分方法による

廃業の際に、減価償却資産において未償却分が残っている場合があります。その場合には、減価償却の対象資産をどう処分するかによって扱い方が決まります。

    • 対象資産を廃棄

未償却分は「固定資産除却損」として、経費に計上することが可能。例えば、店舗内装工事費を減価償却中であり、未償却残高がある状態での廃業となったときに、閉店後に原状回復工事した場合には内装という資産は廃棄されたことになり、廃業時の未償却残高はそのまま 固定資産除却損に振り替えられるということになります。

  • 対象資産を売却

未償却分は譲渡所得の取得費として計上することになります。

居抜き売却、造作譲渡した場合には?

廃業のための費用を抑えるために、居抜き売却、造作譲渡とも呼ばれる手段をとることができます。以下、有償で譲渡した場合についてご紹介します。
造作の譲渡料が、譲渡した資産の取得費と譲渡費用の合計を上回る場合には、利益分が「譲渡所得」として総合課税の対象となります。取得費には、購入代金のほか、設備費や改良費なども含められますが、「使用したり、期間が経過したりすることによって減価する資産にあっては、減価償却費相当額を控除した金額」と、国税庁では説明しています。譲渡費用とは、手数料のような譲渡するためにかかった費用を指します。
総合課税の計算方法は、資産を所有していた期間が5年以下の場合には「短期譲渡所得」、5年を超える場合には「長期譲渡所得」と年数によって異なります。「短期譲渡所得」分は全額が、「長期譲渡所得」分は、半額が総合課税の対象となりますので、造作一式として一括譲渡したとしても、資産ごとに所有年数で分けて扱いましょう。
消耗品や食材、少額減価償却資産などは譲渡所得に含まれないため、所得の分類については、所轄の税務署で確認するようにしてください。
なお、譲渡所得にも特別控除が設けられています。短期、長期の譲渡益を合わせて50万円までの控除が受けられます。双方に譲渡益がある場合には、短期譲渡所得から先に50万円を差し引くとのことです。もちろん、双方の譲渡益を合わせても50万円にならない場合には、その合計金額までしか控除はできません。

確定申告の申告し忘れにはご注意

諸般の事情により、期限内に申告することを忘れてしまった場合にはどうなるのでしょうか?
国税庁のホームページには「期限内に確定申告を忘れた場合でも、自分で気が付いたらできるだけ早く申告するようにしてください。この場合は、期限後申告として取り扱われます」とあります。期限後申告には、基本的には無申告加算税と延滞税も課されますので要注意です。また、期限後申告の場合には、申告書の提出日が納期限となります。その日のうちに税金を納めねばならないことも理解しておきましょう。
したがって、確定申告が必要かどうか不明な場合には、日にち的に余裕を持たせて、所轄の税務署に相談しておくことをおすすめします。
なお、確定申告を忘れた場合に、税務署の調査前に自主的に申告すると、納める無申告加算税が少なくなります。万が一、期日を過ぎてしまった場合には、なるべく早くに期限後申告を行いましょう。
参考:
法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》関係|国税庁
No.2210やさしい必要経費の知識|国税庁
法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》関係|国税庁
[手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続|国税庁
No,3152譲渡所得の計算のしかた(総合課税)|国税庁
No.2024確定申告を忘れたとき|国税庁