飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店廃業の手続き、必要な届出は?どこに出せばいい?

せっかく開業した飲食店も、いずれ廃業を考える必要に迫られることはありえます。経営が落ち込んできたとき、黒字経営であっても体調を崩したとき、家族の介護のために店をたたむことを考えなければならない人もいるでしょう。開業時にいくつかの手続きが必要だったのと同様に、廃業の際にもいくつかの届け出が必要です。今回は廃業の手続き、特に届出書を中心にご紹介します。

廃業のための一連の作業

まずは、個人事業主が廃業するために必要な作業を簡単に見ていきましょう。ただし、時系列・順番は必ずしもこの通りというわけではありません。

  1. 借入金がある場合には、金融機関と相談
  2. リース物品の契約期間中の場合には、リース会社との契約を精算
  3. 物件所有者・貸主と管理している不動産管理会社へ解約の通知(賃貸借契約の解約予告に従い通知する必要があります)
  4. 従業員への廃業の通知(従業員への通知は解雇の30日以上前に行う必要があります)
  5. 保健所、警察署、税務署など各行政機関への届け出
  6. 取引先への連絡
  7. リース品(ビールサーバー、おしぼりウォーマーなど)の返却
  8. 原状回復工事(スケルトン工事)
  9. 電気、ガス、水道の解約
  10. 店舗総合保険の解約

法人の場合の手続き

事業拡張のため、あるいは節税のためなどで、法人名義になっているところもあるでしょう。そこで、法人経営の飲食店を廃業(法人自体を廃業)するための手続きについても簡単にご紹介します。

登記

大きく分けて「解散」「精算」という2つの作業が必要です。「解散」は、法人登記の抹消、あるいは法人格の消滅と説明されることが多い作業です。
「精算」は、「清算人」が債権の回収、債務の返済を行い、残った財産を分配する作業です。
解散日から2週間以内に、解散と清算人の登記を行わなければなりません。そして、清算手続きが完了したら、2週間以内に精算決了の登記を行います。
法人の形態によって、提出する書類が異なります。改定されるものもありますので、法務局ホームページの「商業・法人登記の申請書様式」から最新のものをダウンロードするとよいでしょう。それぞれに記載例もあるので便利です。以下、法人の形態別に必要な申請書です。

株式会社:株式を発行することにより資金を調達して事業活動を行う会社です。

  • 「株式会社解散及び清算人選任登記申請書」(清算人が1人か複数かで申請書が異なります)
  • 「株式会社精算決了登記申請書」

特例有限会社:2006年の有限会社法の廃止により、現在は有限会社を設立することはできません。それ以前の有限会社は株式会社となりましたが、特例有限会社に分類される会社があります。

  • 「特例有限会社解散及び清算人選任登記申請書」
  • 「特例有限会社精算決了登記申請書」」

持分会社:「合同会社」「合名会社」「合資会社」の総称です。

  • 「合同会社解散及び清算人選任登記申請書」
  • 「合同会社精算決了登記申請書」

解散公告

会社法499条、660条により、株式会社と合同会社は、債権者に対する公告として2か月以上、官報に解散公告を出さなければならないことになっています。合名会社、合資会社については、会社法670条により、解散日から2週間以内に、官報へ解散公告を1か月以上出すこととなっています。債権者へ個別の公告も必要であるため、気をつけてください。

その他

  • 「解散確定申告」解散日から2か月以内に提出することが必要です。
  • 「精算確定申告」残余財産確定日から1か月以内(残余財産が確定した事業年度)に提出することが必要です。

各行政機関へ飲食店ならではの廃業届も

飲食店は開業時に各行政機関に届出を行っています。したがって、廃業時にも各種手続きを行う必要があります。以下、提出先別に見ていきましょう。

保健所

保健所の台帳にある登録を削除するため、所轄の保健所へ「廃業届」を提出しなければなりません。提出期限は廃業日から10日以内というところが多いようですが、地域によって異なるので、所轄の保健所で確かめましょう。届出用紙は、保健所の窓口でも取得可能ですが、ダウンロード可能なところが多いので、所轄の保健所のホームページをあたってみましょう。「廃業届」提出時に、「飲食店営業許可書」も返納します。営業許可書の原本を紛失している場合には、早めに所轄の保健所に問い合わせるようにしてください。

消防署

廃業日を解任日として「防火管理者選任(解任)届出書」の解任のほうを記入して提出しましょう。用紙は所轄の消防署で取得してください。

警察署

「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出している場合には、所轄の警察署で「廃止届書」を取得し、廃業日から10日以内に提出します。
「風俗営業許可書」を保持している場合には、所轄の警察署から「返納理由書」を取得し、それとともに営業許可書を返納します。

税務署

  • 個人事業の廃業の場合には「個人事業の開業・廃業等届出書」の「廃業」に丸をつけ、事業廃止日から1か月以内に提出します。
  • 家族が青色専従者であったり、従業員を雇用していたりした場合には、「給与支払い事務所等の開設・移転・廃止届書」の「廃止」に丸をつけても提出します。営業廃止日から1か月以内に出してください。
  • 所得税の青色申告をしていた場合には、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します。青色申告をとりやめた次の3月15日までに出してください。
  • 課税事業者だった場合には、事業廃止後速やかに「事業廃止届出書」を提出しなければなりません。

保険に加入していた場合の廃業にともなう届出

雇用保険に加入していた場合には、所轄の公共職業安定所に「雇用保険適用事業所廃止届」を廃業日から5日以内に、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を、廃業の翌日から10日以内に提出する必要があります。「雇用保険被保険者離職証明書」は3枚複写式の専用用紙を、公共職業安定所の窓口で取得してください。「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」の申請書は、ハローワークインターネットサービスから全国共通の様式のものがダウンロードできます。
そして、雇用保険や健康保険に加入している場合には、「雇用保険適用事業所廃止届の事業主控」や「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を廃業日から5日以内に、所轄の年金事務所にも提出する必要があります。用紙は、日本年金機構のホームページで入手でき、全国共通です。
また、雇用保険、労災保険のいずれかの労働保険に加入している場合には、「労働保険確定保険料申告書」を廃業日の翌日から50日以内に提出する必要があります。提出先は、所轄の労働基準監督署、所轄の都道府県労働局、全国の銀行・信用金庫・郵便局。申告書は毎年、厚生労働省から送られてきているはずですが、見当たらない場合には、所轄の労働基準監督署から郵送してもらうことができます。

廃業にかかる負担を軽減したい場合

飲食店をたたむためには、いくつもの手続きをこなしていかねばならないだけではなく、空賃料やリース契約の違約金、原状回復工事費など、費用もかなりかさみます。
そこで考慮に入れたいのが、居抜きでの店舗売却です。つまり、内装や厨房機器などの造作設備を、次のテナントに引き取ってもらう方法です。リース契約を引き継いでもらえれば、違約金の支払いを避けることができ(店舗の売却金でリース残債を清算して買主に所有権移転をすることも可能です。)、解約予告期間内に引き渡しができれば、空賃料の期間も短くすることができます。そして、もっとも大きなメリットは、原状回復工事が必要なくなること。テナントオーナーとの契約内容によりますが、特にスケルトン状態に戻すことになっている場合には、かなりの額の工事費を工面しなければなりません。それが必要なくなるのは、資金をやりくりする際にとても助かります。また、有償で造作譲渡できれば、いくらかの収入になるのもうれしいところです。
良いことずくめのように見えますが、当然ながら、居抜き売却に関して物件所有者・貸主や管理している不動産管理会社の了承を得る必要があります。物件所有者・貸主や管理会社との交渉に慣れており、良質の売却先を探すのに長けている、経験豊富な居抜き物件専門の業者に相談するとよいでしょう。

廃業に関してもインターネットを活用しよう

事業の形態や規模によっては、必要な届け出がいくつもありますが、現在では、ほとんどの届出書は各機関のホームページで入手可能です。また、記入例を載せているところも少なくありません。最新情報を確認するためにも、ホームページをチェックしましょう。
また、廃業費用圧縮に役立つ居抜き店舗の売却についても、インターネット上に専門サイトがあるため、活用することをおすすめします。(居抜き売却市場