飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店撤退の際の原状回復工事とは?工事は回避できる?

飲食店を経営するうち、その場所からの撤退が必要になることはあるでしょう。また順調に経営が進んでいたとしても、店舗を移転することもあるでしょう。テナントとして入居している場合には、契約を終了しておしまいではありません。契約の終了時に「原状回復」した上での返すことが求められる場合がほとんどです。今回は、原状回復工事に焦点を合わせてご紹介します。

原状回復工事とは?

店舗の移転や撤退をする場合には、通常は現在店舗として借りている場所を契約前の元通りの状態にする必要があり、その工事を原状回復工事と呼びます。ここで言う元通りの状態とは、建物躯体のみで、内装・設備等が一切ない状態を指すことが多いです。
賃貸住宅の転居した経験のある方ならば、「原状回復」について多少なりの知識があるかもしれません。住宅の場合には、経年劣化や通常の損耗分の費用は賃料に含まれているとされており、通常の範囲外の損壊がなければ、原状回復の費用は請求されないことが多いでしょう。
それに対して店舗などの事業用の賃貸借契約では、借主に原状回復が求められるのが一般的です。これは、事業用の賃貸借契約は営利を目的としているため、人の出入りも非常に多くなり、経年劣化による消耗としては考えないからです。そういった視点から、事業用の賃貸借契約では、原状回復についての特約が広く認められることが多いです。住宅の場合と同じように考えないように気をつけてください。

原状回復工事の内容

原状回復工事は、大きくは次の4つに分けられます。

  1. 内装解体工事カウンターなどの造作、客席の間仕切りなどの解体撤去を指します。店舗の外の取り付け看板も含みます。一般的には、壁や天井の下地までは解体しませんが、造作を解体する過程で壁や天井を壊すことがあるため、事前に物件所有者・貸主と工事範囲をよく調整しておくことが必要です。
  2. 修繕、設備工事壁や床の損傷の修復。電気の配線、ガス管などの設備の修復。油煙やタバコの煙による汚れがある場合には、ペンキの塗りなおしなども行います。
  3. スケルトン工事すべての内装を解体し、壁も床もコンクリートがむき出しになり、天井も配線が見ていている状態にするのがほとんどです。
  4. 廃棄物処理各自治体の廃棄物処理条例などに従い、原状回復工事で生じた廃棄物を処理します。通常は、業者に依頼することになりますが、不法投棄されないように、優良業者を選ぶように気をつける必要があります。

原状回復工事費がかさむのはこんな店舗

原状回復工事の費用が高くなりがちな条件というものがあります。以下の項目にあてはまる店舗ならば、予算を多めに計画しておいたほうが無難です。

  • 搬出入のしにくい店舗建物の地下や2階以上の空中階に店舗があったり、店舗までの階段や通路が狭かったり、入り口が小さかったりするところ。
  • 厨房区画・設備を大きく変更した場合床下にあるガスや給排水設備の配管や電気の配線も大きく変わっているため。
  • 喫煙可の店舗タバコの染み付いたにおいや汚れによるクリーニングや修繕が必要なことがあります。
  • 多数の個室などで間仕切りが多いところ造作物の撤去に費用がかかるため。
  • 壁や床の傷みが激しい厨房機器(重量物)の移動などの過失による損耗も修繕が求められることが多い。

原状回復工事の範囲は?

原状回復の義務があったとしても、必ずしも建物躯体のみで、内装・設備等が一切ない状態に戻すこと求められるわけではありません。賃貸借契約書をよく確認しましょう。特に、特約事項をチェックしてください。

特約事項 例1

「本物件の明渡し時において、乙(借主のこと)は、本物件内に乙が設置した造作・設備等を撤去し、本物件の変更箇所及び本物件に生じた汚損、損傷箇所をすべて修復して、本物件を引渡し当初の原状に復せしめなければならない。」
一般的に、以下の9点において、原状回復工事が必要とされることが多いでしょう。

  1. 壁、天井
  2. ドア、窓、窓枠
  3. 電気の配線
  4. 照明
  5. 水回り
  6. カウンターや棚などの造作
  7. 間仕切り
  8. 破損や毀損箇所

特約事項 例2

「但し、甲(物件所有者・貸主のこと)が認めた場合はこの限りではない」
なんらかの条件がつくことが多いでしょうが、このような特約が入っている場合には、物件所有者・貸主との交渉次第では、原状回復工事が不要になる可能性があります。
例え営業期間がたった1日であったとしても、賃貸借契約に記載されている以上、原状回復の義務が生じます。ただし、きれいな状態ならば、原状回復工事をしなくてもよいという物件所有者・貸主もいます。
「甲(物件所有者・貸主)が認めた場合はこの限りではない」という特約のあるなしに関わらず、店舗の状態によっては交渉してみるのもよい手でしょう。

入居時の状態と「原状」が異なるときも

店舗の場合、スケルトン状態(建物躯体のみで、内装・設備等が一切ない状態)での賃貸借契約を前提としていていることが一般的です。これは、居抜きで入居したとしても前借主が負っている原状回復義務を承継することとなるので同様となります。また、場合によっては、スケルトン状態に戻した後の仕上げ工事までの負担を求められることがあります。賃貸借契約書の文言、原状回復がどこまでを指すのかについてよく確かめるようにしてください。

原状回復の範囲は立ち会いのもとで確認

原状回復区分の範囲については、物件所有者・貸主と借主との間で認識が異なることが珍しくありません。後々のトラブル回避のために、確認資料を作成し、物件所有者・貸主との話し合いの際には、原状回復工事業者などに立ち会ってもらうとよいでしょう。

原状回復工事の押さえておくべきポイント

原状回復工事の費用をできるだけ抑えるために気をつけておくべきポイントについてもご紹介しましょう。

相見積もりを取る

原状回復工事の施工業者が物件所有者・貸主から指定されている場合は少なくありません。それでも、複数の業者から見積もりを取り、指定業者との見積もりを比較して価格交渉をすることができますので、トライしてみましょう。その際には、工事日数についても検討するのを忘れないようにしてください。

契約満了時までに終了させる

工事期間はなるべく短期間にすませたいところですが、作業中に予期せぬ事態が発生するとも限りませんので、物件返却日までに必ず終了するように、余裕をもたせた日程にしてください。間に合わないと、さらなる賃料が発生したり、違約金の支払いを求められたりするので気をつけましょう。

原状回復工事は回避できる?

かなりの費用負担が必要になる原状回復工事ですが、回復義務を回避する方法もあります。それが、造作譲渡、いわゆる居抜きです。内外装、設備を残してそのまま引き継いで借りてもらうことができれば、原状回復工事費用も、工事のための期間も、工事発注のための手間も省くことができます。ただし、物件所有者・貸主の了承が必要なことには、注意が必要です。
居抜き店舗となる場合、内装設備類は次の借主に買い取ってもらうことになります。ただし、造作譲渡料の相場の判断は難しく、早くに次の借主を見つけたい場合には、価格を低めに設定したり、無償にしたりすることもあります。
居抜きで譲りたい場合には、居抜き物件専門の業者を通すと、短期間で希望の価格で見つかる可能性が高くなるでしょう。また、居抜き物件専門の業者を通した場合には、物件所有者・貸主との交渉も代行できる場合もありますのでその点からもオススメです。現在では、インターネットでも居抜き物件専門サイトがありますので、利用を考慮するとよいでしょう。(居抜き売却市場)

賃貸借契約書の内容確認が重要!

原状回復工事には、かなりの出費が予測されます。そのため、物件所有者・貸主と認識が食い違い、トラブルになることも少なくありません。まずは、賃貸借契約書をよく確認しましょう。また、物件所有者・貸主とは、日頃から良い付き合い方をしておくようにしましょう。退去時に、場合によっては斟酌してもらえることもあるかもしれません。