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飲食店店舗の売買を考えるならば知っておきたい営業譲渡契約書

飲食店の業務、譲渡資産などを譲り渡したり、譲り受けたりするときに必要となってくるのが譲渡契約書です。とはいえ、契約書を交わすのが面倒に思う人は少なくないでしょう。司法書士や弁護士に契約書の作成を依頼すると数万円のコストと聞くと、ますます省略できないかなと考えたくなるかもしれません。そこで今回は、譲渡契約書に焦点を合わせてご紹介します。

譲渡契約書とは?

保有している資産を譲り渡すことを記載した契約書が「譲渡契約書」と呼ばれているものです。
2006年(平成18年)に会社法と商法の大改正があり、旧会社法で使用していた「営業譲渡」が、新会社法で「事業譲渡」という呼称に改められました。呼称が変更しただけで、事業譲渡と営業譲渡はほぼ同義です。
ただし、今でも営業譲渡という呼称が使用される場合があります。それは、商法が適用される場合です。法律行為の当事者は、会社法では会社のみですが、商法では会社のほかに個人の商取引も含まれます。
個人事業主である場合には「営業譲渡契約書」、法人の場合には「事業譲渡契約書」となります。ここでは、個人事業主の場合の営業譲渡という言葉を用いて説明していきます。

契約書を取り交わす理由

口約束ではなく、書面での契約書を締結する理由は、トラブルを回避するためです。詐欺を避けるためにはもちろんのこと、誤解や不測の事態から生じる損失の責任を明確にしておくことで、さらなる損失や不必要な責任を負わされないようにするため、売り手側であっても買い手側であっても契約書の締結は重要なことなのです。
契約書を交わす際には、念のために署名と押印の双方を、立会人のもとで行うようにしましょう。譲渡金額によって印紙が必要ですので、割り印も忘れないようにしてください。

注意したい契約条項の数々

譲渡する対象によって、さまざまな契約条項が含まれます。店舗の営業譲渡契約書に含まれる一般的な条項は以下のとおりです。

  1. 営業譲渡
  2. 譲渡資産
  3. 営業譲渡の対価及び支払方法
  4. 譲渡資産の引き渡し
  5. 譲渡人の善管注意義務・譲受人の協力義務等
  6. 競業避止義務
  7. 従業員の取扱い
  8. 表明保障
  9. 前提条件
  10. 契約解除
  11. 損害賠償
  12. 公租公課及び費用の負担
  13. 守秘義務
  14. 個人情報、顧客情報
  15. 反社会的勢力の排除
  16. 協議
  17. 連帯保証
  18. 管轄

「競業避止義務」の範囲

商法上や会社法上の「事業譲渡」に該当する場合において、「競業避止義務」に関する意思表示がなければ、譲渡人である売主は競業避止義務を負うことになり、商法あるいは会社法によって「同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から20年間は、同一の営業を行ってはならない」ことになります。
売主は、将来の事業活動の可能性によっては、「競業避止義務」を排除したり、場所を限定する、期間を短縮するなどの措置が必要です。また、売主が同一の営業を行わないという特約をした場合には、「その特約は、その営業を譲渡した日から30年間の期間に限り、その効力を有する」ということも頭に入れておきましょう。
商法上や会社法上の「事業譲渡」に該当しない場合であっても、「競業避止義務」を課したい場合には、契約書に「競業避止義務」を定めることによって可能です。

譲渡資産の特定

上記条項に挙げられている「譲渡資産」について、ポイントをご紹介しましょう。
最も注意すべき点は、譲渡の対象となる営業用資産は自動的に決まるわけではないので、契約書内で承継範囲を明確にしておく必要があるということです。
買主にとっては、営業に必要な資産がすべて含まれていることを確認し、隠れた債務を引き受けることがないよう、資産を特定しておく必要があります。また、売主にとっては、契約書に明記しなければ事業に関する債務を買主に承継させることができませんので、気をつける必要があるのです。
また、譲渡対象の資産には以下のようなものも含まれます。

  • 屋号やロゴ、商号
  • 電話の加入権
  • 現存する商品
  • 得意先、仕入先、顧客に対する権利

営業譲渡の場合には、顧客リストのような個人情報を引き継ぐことが認められていますので、個人情報保護法違反ではないことを証明するためにも、契約書に明記しておきましょう。

著作権譲渡の登録

すでにその店舗で使用されているキャラクターやイラストなども引き継いで利用したい場合には、「著作権譲渡の登録」を条項に加えるか、「譲渡人の善管注意義務・譲受人の協力義務等」内に明記するようにしましょう。著作権者であることを主張するためには、著作権譲渡の登録が必要ですが、その登録の際に売主の協力を定めるものです。第三者に権利を奪われることがないようにするためのものなので、契約締結後に文化庁においての著作権譲渡の登録を忘れないようにしてください。

トラブル回避には専門家に相談がおすすめ

譲渡においてのトラブルの種は数多くあり、口約束では問題解決が難しいことが少なくありません。時間も費用もかかるトラブルを回避するためには、契約書をきちんと交わしておくことがおすすめです。契約書をインターネット上のひな型のようなものを用いて自作した場合にも、リーガルチェックを受けると安心です。
譲渡を考慮するのならば、まずは専門の業者に相談することをおすすめします。実績のある業者ならば、売買の相手を迅速に探してくれるだけではなく、トラブルを防止できるように契約書も作成してくれますので、スムーズに売買の取引をすませることができるでしょう。
参考:著作権登録制度|文化庁