飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店の従業員解雇の注意点、廃業の際の解雇予告通知はいつ出す?

飲食店を廃業する際に、個人事業で小規模経営であっても、従業員を雇っている場合には、しかるべき手続きを踏んで、従業員に辞めてもらう必要があります。今回は、従業員解雇の種類、廃業の場合の解雇の要件をご紹介するとともに、従業員解雇の際の手続きをご紹介しましょう。

従業員解雇の種類

従業員の解雇は、次の4種類に分けられます。

懲戒解雇

厚生労働省の解説によれば「懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われるもの」とされており、業務上横領、重要な業務命令の拒否、パワハラやセクハラなどによって、店内の規律を著しく乱した従業員に対する最も厳しい処分が懲戒解雇となります。公務員の場合の懲戒免職と同等の位置づけです。解雇予告手当の支払い免除や、退職金の不支給が認められる場合もあります。
ただし、乱用を防ぐために、労働契約法第15条に「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」とありますので、懲戒解雇を適用する場合には、十分に注意する必要があります。

諭旨解雇

懲戒解雇に相当するくらいの事由があるものの、経営者の酌量でやや軽くした解雇処分です。強制的に解雇するというよりも、従業員に処分を納得してもらって辞めさせるという印象があります。解雇予告手当や退職金を支給する場合が多いでしょう。
理由を納得してもらって自己退職に持って行った場合に「諭旨退職」とする考え方もあります。

普通解雇

遅刻や無断欠勤が多かったり、職務遂行能力を欠いていたり、傷病によって勤務が不可能になったりした場合に、労働契約を一方的に解除することを指します。
ただし、いきなり30日前に解雇予告を行っての解雇や、解雇予告手当を支払って即時解雇することは難しいでしょう。解雇の場合も、労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあるため、従業員に問題点を指摘すると同時に改善を促し、改善するように業務指導を行うなどの作業が必要だからです。
また、解雇事由が法令に違反していない必要があります。例えば、女性の結婚や妊娠などを理由にした解雇や、従業員が労働基準監督機関に申告したことを理由にした解雇は認められません。就業規則に、解雇事由や手続きについて定めてあることも必要なので注意が必要です。

整理解雇

経営悪化から、飲食店存続のための人員整理を目的とした解雇です。正確には、普通解雇のひとつです。
整理解雇を行う場合にも、必要な要件があります。通常「整理解雇の4要件」と呼ばれており、4つのすべてを満たさねばなりません。4要件については、厚生労働省静岡労働局の説明が分かりやすいので、以下にご紹介しましょう。

    • 経営上の必要性

倒産寸前に追い込まれている、整理解雇をしなければならないほどの経営上の必要性が客観的に認められること。

    • 解雇回避の努力

配置転換、出向、希望退職の募集、賃金の引き下げその他、整理解雇を回避するために、会社が最大限の努力を尽くしたこと。

    • 人選の合理性

勤続年数や年齢など解雇の対象者を選定する基準が合理的で、かつ、基準に沿った運用が行われていること。

    • 労使間での協議

整理解雇の必要性やその時期、方法、規模、人選の基準などについて、労働者側と十分に協議をし、納得を得るための努力を尽くしていること。
(出典:「労働基準法の概要(解雇・退職)」厚生労働省静岡労働局

廃業による解雇の場合には?

飲食店が倒産、あるいは廃業することによる従業員の解雇は、整理解雇に含まれます。したがって、「整理解雇の4要件」について、照らし合わせてみましょう。

    • 経営上の必要性

閉店のため、従業員の働く場所がなくなりますので、必要性があると考えられます。

    • 解雇回避の努力

廃業しないための経営努力がこれに当たります。

    • 人選の合理性

従業員全員が解雇の対象にならざるを得ないため、妥当性があると考えられます。

    • 労使間での協議

従業員全員に対しての説明会や協議がこれに当たります。閉店が決まったら、支障がない限りなるべく早くに行います。

飲食店廃業による従業員解雇の流れ

従業員を雇っている場合には、廃業の際にいくつかの手続きが必要です。閉店前後に分けて見ていきましょう。

閉店前の作業

飲食店業を廃業する際に、従業員がいる場合に最初にすべきことは、「解雇予告通知」です。解雇予告通知書という書面の形で伝えましょう。従業員間に誤った情報が出回ったり、混乱したりすることを避けるために、全員を集めての説明会も設けることをおすすめします。撤退について理解してもらい、閉店まで従業員のモチベーションが維持できるようにしましょう。そうしないと、閉店前に従業員が次々と辞めたり、勤務態度が悪化したりして、残りの営業に大きな影響が出てしまうことがあります。
30日に満たない日数で解雇する場合には、不足する日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります。
あとあとのトラブルを避けるためにも、未払い賃金や未払い残業代が残らないようにしましょう。従業員がそれらを請求してきた場合には、請求時間や休憩時間の算定などが正しいかどうか、就業規則や雇用条件通知書に沿っているかどうかなど、細かく確認して対応する必要があります。不安な場合には、労働基準監督署に相談しましょう。
また、1ヶ月以内に30人以上の従業員が離職するとなると、「再就職援助計画」や「大量雇用変動届」をハローワークに提出する必要があります。手続き案内等は、厚生労働省のホームページで確認してください。
なお、店舗の居抜き売却を考えている場合には、従業員に解雇予告通知を出すよりも前に閉店に向けて動き始めることになります。閉店日が確定するまでは従業員に伏せておきたいといった希望がある場合には、居抜き専門業者にその旨も含めて相談するとよいでしょう。

閉店後の作業

健康保険、厚生年金保険の適用事業所であった場合には、「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」および「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を所轄の年金事務所に、廃止から5日以内に提出しなければなりません。
労働保険は、保険料を確定、精算を行ったあとに廃止となるため、「労働保険確定保険料申告書」を事業の廃止又は終了の日から50日以内に労働基準監督署へ提出する必要があります。
「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」も、廃止日の翌日から10日以内に公共職業安定所に提出してください。
疑問点や不安な点がある場合には、所轄の公共職業安定所に問い合わせましょう。

トラブルを避けるためには従業員との信頼関係が大切

飲食店廃業に際して、従業員とトラブルになってしまっては、廃業するためにさらに時間も費用もかかる可能性があります。トラブルを避けるためには、日ごろから従業員を適切に処遇し、良い人間関係を築いておくことが大切です。廃業が決まった際には、廃業に至ることを真剣に説明し、理解が得られるようにしましょう。離職することになる従業員の心のケアも、可能な限り行うようにするとよいでしょう。また、トラブル回避には、就業規則に、廃業の際の解雇について適正に記載されていることも重要ですので、確認しておいてください。
参考:
労働契約法のあらまし|厚生労働省
「再就職援助計画」と「大量雇用変動届」|厚生労働省
適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き|日本年金機構