飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店が倒産するのはなぜ?その理由に迫ってみよう!

飲食店業界は開業も多いが閉業もまた多いといいますが、近年の倒産事情はどのようになっているでしょうか? やはり、他業種に比較して倒産が多いのでしょうか? また、倒産理由はやはり赤字経営によるものなのでしょうか? そこで今回は、飲食店の倒産に焦点を合わせ、倒産する理由について、いろいろ見ていきましょう。後学のためになるかもしれませんよ。

近年の倒産事情は?

帝国データバンクの「全国企業倒産集計」によれば、昨年度の倒産件数は2年ぶりの前年度比減少を示しています。負債総額も2000年度以降最小であったことが分かりました。
業種別に見た場合には、「建設業」、「製造業」、「卸売業」、「不動産業」は2000年度以降最少の倒産件数でしたが、飲食店業界を含む「サービス業」や「小売業」は前年度比が増加しており、業種間の違いが顕著に表れていたと報告されています。

倒産の主因は?

前述の帝国データバンクの報告によれば、約8割の倒産が、販売不振、売掛金回収難、不良債権の累積などによる「不況型倒産」に分類されました。
それでは、飲食店における倒産理由とはどのようなものがあるのでしょうか。いくつか見ていきましょう。

運転資金不足による資金繰りの悪化

開業後、経営が安定化する前に倒産してしまうケースのほとんどは、運転資金が不足していたため資金繰りに詰まったからと考えられます。事業計画書に無理があったり、売り上げ予測が甘かったりする場合はもちろん、内装工事のようなことで不測のトラブルがあり、想定以上に初期コストがかかったというように、黒字化するまで資金が持たなかった場合です。集客のために広告を打とうにも、資金がなければそれもできません。最低でも6ヶ月間の運転資金を準備するように推奨されていますが、開業後の資金繰りに響いてくる物件取得費や店舗設備費を抑えるよう努力することも必要でしょう。
夢実現の最初の一歩として、すぐにでも不動産を押さえてしまいたい方もいるようですが、家賃は固定費の中の大きな部分を占めるので、事業計画立案前に安易に不動産を契約することは、倒産リスクが増す原因になるので避けた方が無難です。

商圏のリサーチ不足

開業してすぐに倒産に追い込まれてしまうケースには、店舗周辺のリサーチが十分ではなく、お客様の特性とニーズに対応していなかった場合もあります。経営者の「自分の城」という思い入れが強すぎての倒産もこれに当たります。店のコンセプト、価格帯や客単価、営業時間などが近隣地域の客層に合わなければ、集客が難しいからです。そして、客層に合わせたマーケティング戦略を取るためにもリサーチは必要です。効果的な媒体や手段を選ばないと、集客できないまま、広告費用だけがかかることになってしまいます。

いつの間にか陥っている営業不振

人気店であっても、世の中の移り変わりとお客様の嗜好(しこう)の変化によって、客足が減少することがあります。長くひいきにしてくれる固定客がつかず、時とともに飽きられて売り上げが減少していく場合もあります。手堅く経営していたとしても、店舗周辺の環境が変わったため、客層も変わり、ニーズと店のコンセプトが合わなくなって経営不振に陥るケースもあります。
いずれの場合も、有効な施策を打つことができないと、資金繰りが苦しくなり倒産に至ります。

業態の寿命

飲食店業界は、はやり廃りも激しいところです。トレンドやブームという名前でメディアに取り上げられ、大流行する料理、食材、大繁盛する業態などが、時折出現します。例えば、20世紀にはやったものを見ると、「イタ飯」、「居酒屋チェーン店」、「ティラミス」、「ボージョレ・ヌーヴォー」、「ナタデココ」、「ジンギスカン」など、枚挙にいとまがありません。どんなにもてはやされていたとしても、時がくれば、その流行は終焉(しゅうえん)を迎えます。
一過性の流行に乗った業態を開店した場合には、流行とは無縁な固定客をつかんでおいて、それをもとに適切な業態転換を行わないと、業態の寿命とともに倒産することになります。

事業上の失敗

東京商工リサーチの調査において、飲食店倒産の原因として2番目に来るのが、事業上の失敗です。
人気店であっても、急激な出店を続けたため、資金繰りが悪化して倒産というようなケースがこれに当たります。また、立地改善で売り上げアップを狙っての移転や事業拡大のための拡張移転を試みたものの、期待した売り上げにつながらず、工事費や経費で逆に収益が悪化して倒産に陥る場合もあります。近隣に競合店が出現したのを機に価格競争にはまって利益率が下がり、価格競争から抜け出ることができずに倒産してしまうこともあります。

収支管理の失敗

安定した経営のためには、損益計算書を作成し、きちっと収支管理をするべきですが、なかには施策が売り上げ向上のみに終始し、費用の削減に目が行かず利益率が落ちて、経営が悪化する場合があります。特に原価管理は、純利益の増減に大きく効いてくるので、お客様の満足度を考慮しながら上手にコントロールしていかないと、繁盛していても利益が出ないということが起こります。また、収支管理をしていても、仕入れ価格の高騰や人件費の増加に対応しきれず、思いがけない修繕費の発生といったことによって収益が悪化し、倒産に至るケースもあります。

人手不足

昨今の特殊要因倒産として注目を集めているのが、人手不足による倒産です。従業員の離職や人材採用難に見舞われた結果、収益が悪化したというようなことで倒産することを意味します。前述の帝国データバンクの報告においても、前年比約48%もの増加を示していたのが人手不足倒産でした。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」からも、飲食店は正社員および非正社員の双方で、不足感が急速に高まっていることが示されています。
人手不足への対処法としては賃上げが多く、特に人手が「非常に不足」していると回答した企業の約68%が賃金改定の予定があると見込んでいるという結果でした。
飲食店における人件費は、変動費の中で原価と並ぶ大きな費用となっており、人件費の上昇は経営への影響が大きく、また、人手不足による接客サービスの低下は客離れを引き起こしやすいため、近年の人手不足問題は、飲食店の経営へ大きく波及していると言えるでしょう。

後継者難

前年度比約23%増の後継者難倒産は、その名の通り、後継者が見つからないための倒産であり、ニュースでも取り上げられています。特殊要因倒産のひとつと言えるでしょう。
帝国データバンクの「社長分析」では、社長の平均年齢は約59歳。約66%の企業は後継者不在と回答しています。飲食店経営者に限ってみると、経営者の半数以上が60歳以上であり、個人経営となると約26%が70歳以上の経営者となっており(厚生労働省調べ)、飲食店業界においても後継者難倒産は増加していくと考えられます。

自店の置かれている状況を常に把握しておこう

経営が軌道に乗ったからといって、安心していられないのが飲食店経営です。苦労して繁盛店にこぎ着けたとしても、世の中の流行、消費者の好みの変化によって、あっという間に廃れる可能性がないとは言えません。外食産業全体の流れの影響も受けざるを得ず、近隣の飲食店の出店状況だけではなく、世の中の動向についても先読みしていく姿勢が必要でしょう。いくつも押し寄せる大波小波を乗り越えるように、経営店をうまく操縦していってください。
参考:
全国企業倒産集計2018年度|帝国データバンク
2017年「飲食業」の倒産状況|東京商工リサーチ
全国企業倒産集計2018年度報|帝国データバンク
人手不足に対する企業の動向調査(2019年1月)|帝国データバンク
2016年後継者問題に関する企業の実態調査|帝国データバンク