飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

借金には気をつけたい飲食店経営。借金を残さずに閉店するには?

特に思い当たる原因もないのに、営業利益がじりじりと下がっていく場合があります。季節が変わったら、年が明けたら……と、好転するのを期待しているうちにどんどん経営が悪化してしまうことがあります。資金繰りが厳しくなってくると、融資してもらうことを考える人もいるでしょう。今回は、飲食店経営における借金に焦点を合わせてご紹介します。

資金繰りが厳しくなったら赤信号

飲食店業界は現金商売であることが多いため、資金繰りが比較的容易であるとされています。日銭商売ともいわれるように、代金をその日その場でお客様からいただくので、仕入れ代や家賃などの支払いのやりくりがしやすいからです。
それに対して、後日に代金を回収する「掛け売り」や「与信取引」では、入金と経費の支払期限の間にギャップがあります。そこで、「掛け売り」や「与信取引」を行っている経営者は、入金までの資金繰りのために運転資金を融資してもらうことがあります。ところが、現金商売である飲食店が、資金繰りに苦しんで運転資金を融資してもらうという状況は、手元の資金が底を突いていることにほかなりません。
すでに経営が厳しい最中、さらに返済額を増やしても、どうにもならない場合が多いでしょう。融資を受けてメニューの一新や業種転換を図るなどの現実的な打開策がない場合には、運転資金を新たに融資してもらうことはおすすめできません。資金繰りが厳しくなったら、飲食店としては赤信号であると捉え、閉店もひとつの方策として考慮する必要があるでしょう。

借金を残さずに閉店するには?

経営が厳しい飲食店を閉店するにしても、多大な借金を抱えての店じまいは避けたいものです。そこで、なるべく借金を残さずに閉店するにはどうしたらよいか、考えてみましょう。

余力のあるうちに閉店

飲食店の閉店には意外にコストがかかります。所有物件ではなく、テナント物件を借りている場合には、物件の原状回復工事にかなりのコストがかかります。スケルトン状態に戻すかどうかにもよりますが、坪当たり数万円はかかると見込んでおいた方がよいでしょう。物件の立地や内装の状況によってさらに加算される場合がありますので、具体的な数値については、内装解体業者から見積もりを取る必要があります。参考までに、全国規模で内装解体・原状回復工事を請け負っているある会社の事例集では、約30坪のファーストフード店の内装解体工事に、工期3日間、費用250万円とあります。
そのほか、賃貸契約を解除するためには、解除予告期間の家賃や光熱費などを負担する必要もあります。閉店作業をすませることができる余力が残っているうちに、閉店することが重要でしょう。

居抜きを利用

近年、飲食店業界で流行している「居抜き」で物件を引き渡すことができると、閉店コストを大きく削減することができ、借金を残さずに閉店することが可能になるかもしれません。高額の内装解体工事が必要なくなると同時に、次の借主に物件を引き渡す際に、次の借主が物件の貸主・所有者と賃貸契約を結ぶため、空家賃を支払う期間が短くなります。また、造作一式の譲渡費用を手にすることができるので、閉店のための資金繰りが楽になるかもしれません。ただし、居抜き売買は物件の貸主・所有者の了承が必要であるため、経験のある居抜き専門業者を通すとよいでしょう。現在は無料で査定をしてもらえるため、まずは相談してみることをおすすめします。

借金があるなら債務整理

すでに多額の借金がある場合には、債務整理を検討しましょう。債務整理の方法として、次の4つが考えられます。いずれにしても、債務整理に強い弁護士に相談することをおすすめします。

小規模個人再生

小規模個人事業主を対象とした個人再生であり、借金を大幅に減額してもらえるうえ、3~5年の長期分割払いで返済できます。自己破産とは異なるため、住宅ローンの残っている自宅は処分せずにすみます。ただし、個人再生を利用するには、債務額が5,000万円を超えないことが条件となっています。

任意整理

債権者と交渉して、返済が可能になるところまで借金を圧縮する方法ですが、利息がカットされるだけのことも多く、多額の借金には向かないでしょう。メリットには、保証人に迷惑がかからないように、保証人がついている借金を別にするといった融通をつけられることや、裁判所を通さないため、法廷に出る必要がないことが挙げられます。ただし、任意整理を成功させるためには、債務整理を得意としている弁護士に依頼することが重要であり、費用がかかります。

特定調停

任意整理とは異なり、債権者との間に裁判所に入ってもらって返済を調整してもらう方法です。自分でやれば比較的費用が安価ですむとされていますが、不利な条件で和解とならないように、弁護士に依頼した方が無難でしょう。

自己破産

借金の額にかかわらず、借金がゼロになる方法です。ただし、保証人や連帯保証人には、返済の義務が残ることを念頭に置いておきましょう。また、自己破産申請時に20万円以上の売掛金があると、管財事件扱いとなり、手続きが長引く可能性があります。また、自己破産の手続きを行う場合にも、収入印紙代や予納金、弁護士や司法書士への費用などが必要なことを忘れないようにしなければなりません。

これはやめよう!

借金がかさんでくると、「もう、どうでもいいや」と投げやりになったり、何もかも放り出して逃げたくなったりすることもあるでしょう。しかし、次のような行動に出ることはすすめられません。

借金を放置する

借金を滞納し、督促状を無視、裁判所からの呼び出しにも応じないなどしても、借金が消えるわけではありません。特に裁判所からの呼び出しを無視すると、債権者の主張が全面的に受け入れられ、財産の差し押さえにつながっていきますので、注意が必要です。

夜逃げして時効の成立を当てにする

銀行の法人からの借金の消滅時効は、返済期日の翌日から5年間という場合が多いでしょう。ただし、5年間過ぎただけでは時効とならず、消滅時効の援用という手続きを行い、債権者から原契約書を返してもらってはじめて時効が成立します。
また、債権者が裁判上で請求を行うと、時効が10年間になったり、差し押さえの処分を受けると、時効のカウントがやり直しになったりします。
差し押さえの処分を受けないようにするためには、住民票を移さずに逃げなければなりませんが、住民票がないと、日常生活に大きな支障が出るため、逃げ隠れしながら時効の成立を当てにすることは現実的ではないと言えるでしょう。

早めに決断が吉!専門家を頼ろう!

せっかく開店させたのに、一時はかなり繁盛したのになどと思うと、多少は不調の期間が続いても、閉店は論外とする人もいるでしょう。しかし、経営を好転させるきっかけがつかめないのならば、早めに閉店を決断することも、ダメージを少なくするためには必要かもしれません。まだ余力があるうちならば、居抜き専門業者のもとで条件の良い買い手を探すことができます。借金ゼロでの撤退も可能でしょう。すでにかなりの借金を抱えているのならば、早めに弁護士に相談し、借金の圧縮を試みましょう。少なくとも、運転資金や生活資金を消費者金融から借りて自転車操業するようなことは避けるようにしてください。