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飲食店経営、資金繰りに困らないようにする方法はある?

飲食店の資金繰り

飲食店の資金繰り

「資金繰りが苦しくなって、倒産寸前」「資金がショートしかけている」などの表現があります。倒産といえば赤字、と思い込んでいたら要注意。資金繰りを失敗すると、黒字経営でも倒産するのです。今回は、飲食店経営の際の「資金繰り」に焦点を合わせて、取るべき方策を考えていきましょう。

「資金繰り」とは?

「資金繰り」とは、資金の流れを管理し、家賃といった経費の支払いが滞りなく行えるようにすることです。「資金ショート」とは、手元にある現金や預金が少なくて、家賃や人件費、仕入れ代などが払えなくなった状態です。
飲食店業は、お客様から対価としてその場で現金をいただく「現金商売」が多いため、資金繰りが比較的楽な業界とされています。掛け売りや与信取引といわれる形態では、入金の前に家賃や人件費などの経費の支払期限が来ることがあります。それに対して現金商売では、お客様が来るたびに入金があるため、家賃といった経費が払いやすいのです。
したがって飲食店であっても、支払いにカード決済を導入し、入金に10営業日のように数日間を要する場合には、資金繰りに気をつける必要が出てきます。ただし、現在では翌日入金に対応しているスマホ決済もあります。翌日入金ならば、現金商売と状況はほとんど変わらないでしょう。

開業後しばらくの資金繰り対策

飲食店の開業資金には、開店後しばらくの間の運転資金を含めます。開店当初から途切れることなく店を繁盛させ、黒字経営を維持できることはまれなためです。
開店当初はほとんどお客様の来店がなく、だんだん客数が増えていく店もあれば、開店当初はにぎわったものの、その後客足が激減してしまう店もあります。いずれにしろ、経営が安定化するまで、売り上げがなくとも店を開けておくことが可能なだけの資金を用意しておくことが、開業後しばらくの資金繰り対策で最も重要なポイントです。
また、店の運転資金だけではなく、自分自身が生活していくための資金も忘れないようにしておきましょう。

経営安定化までの運転資金を大きく確保するための方法

  • 自己資金を用意する

借入金が多いと、毎月の返済額が経営を圧迫しがちになるため、できるだけ自己資金を用意するのに越したことはない。

  • 居抜き物件を探す

飲食店開業という夢を実現するとなると、内装やレイアウトにこだわりたいところだが、すでに飲食店用の内装が施され、厨房機器が整っている物件を取得できれば、内装工事費を大きく削減することができる。これは、その分の資金を運転資金に回すことができるだけではなく、減価償却費を抑えることにもなり、経営の安定化にも大きく影響する。

  • 装飾や器具に凝りすぎない

コンセプトに合致したものを用意するべきだが、上記の居抜き物件を探したい理由と同様、経営が安定化するまでは、店内装飾や什器も必要以上にはお金をかけないことがベスト。経営が安定化したら、徐々に装飾品や什器を充実させていくという方法も、経営の張り合いになる。

  • 効率のよい広告方法を選択する

宣伝広告をしなければ、お客様は来ない。しかし、広告費を使えば使うほど来店が増えるわけでもない。店の業態や立地、ターゲット層をよく勘案して、効率の良い方法で集客するべき。

  • 従業員の雇用は必要になってから

経費のなかでも、人件費は大きな割合を占める。開店当初のお客様が少ない段階から不必要に多くの従業員を雇うのは避けるべき。

経営安定化後の資金繰り対策

開業当初の「経営の黒字化」が達成されれば、あとは「心配がない」、というようには、残念ながらなりません。繁盛店がいつの間にか閑古鳥が鳴くようになっているということも、決して珍しくはないのが飲食業界です。

「資金繰り」を失敗しないためには?手元資金はいくら必要?

経費の支払い時に手元にある現金・預金が不足しないようにするためには、手元資金の金額を知る必要があります。そこで、佐藤修一公認会計士事務所のおすすめの方法をもとにご紹介します。

  1. 毎月必要な支出の総額の把握

食材や飲み物の仕入れ代以外の、毎月支払いが必要な経費の総額を算出する。そこに借入金の毎月の返済額も加え、通常月の支出総額を出す。

  1. 毎月ではない支出の総額の把握

毎月ではないものの、定期的に支払いが必要なものを洗い出す。例えば、消費税のような税金や保険料、従業員への賞与など。それぞれの項目について、月平均にするといくらになるかについて算出。
半年に一度の賞与ならば、6で割る。年に1回の支払いならば、12で割る。月平均にしたものを集計する。

  1. 毎月残しておくべき金額は?

1の月の支出総額に、2の月平均を集計した額を加えると、毎月手元に残しておくべき最低限の金額が分かる。

  1. 毎月必要な売り上げは?

毎月必要な粗利益金額÷原価率で、毎月必要な売上高になる。

  1. 損益分岐点

4の金額が損益分岐点になる。

  1. 手元に保有しておくべき現金預金額は?

月の売り上げの変動が小さい店舗では、翌月、翌々月の売り上げ予測にはずれが少なく、手元の資金は少なめでも支払いに困る事態は起こりにくいだろう。少なめとはいっても、いざというときのために、3の金額の2か月分は手元にあるようにすることが基本。
月の売り上げの変動が大きい店舗では、多めの手元資金を保持していることが基本なので、3の金額の3か月分を目安に手元資金を置いておきましょう。日銭が入るからといって、気軽に使ってしまわないように。

資金繰りが苦しい!資金ショート、当座の回避の仕方

資金繰りがうまくいかず、手元資金が底を突きかかってしまっても、まだできることはあります。あきらめずに最善を尽くしましょう。

正確な状況の把握

現在の手元に残っている現金・預金と、いつにいくらの支払いがあるかについて、冷静に調べましょう。
ふだんから「日繰り表」を使用していない場合には、日付ごとに相手先や内容などの明細、入金、出金、残高を記した「日繰り表」というものを作って、ひと目で分かるようにするとよいでしょう。
売り上げの入金は、だいたいの予測金額を入れることになりますが、希望的観測に立たないようにしてください。

資金がショートする時点を見つける

日繰り表から、いつのどの支払いの時点で資金が底を突くのか、明確にします。

入金を早める

何らかの入金予定があるならば、ショートしてしまう前に入金してもらえるように頼んでみましょう。また、売掛金(ツケ)がある場合には、回収しましょう。

在庫を換金する

高価な酒類の在庫がある場合には、酒屋で引き取ってもらって現金化することができます。また、厨房機器でめったに使用しないもの、家電用のものに買い替えが可能なものなどは、中古厨房機器専門店に買い取ってもらうという手があります。

支払期限を延長してもらう

銀行からの借入金の場合には、リスケジュールしてもらいましょう。連絡なしに返済を滞らせることは避けてください。電気代やガス代、家賃なども同様です。無連絡で滞納するのではなく、支払期限の延長を誠意を持って、なるべく早くにお願いしてみましょう。

資金繰りには助成金の活用もアリ

ちょっとした入金があれば、資金繰りがぐっと楽になって、勢いがつくことがあります。店内の雰囲気が変わると、経営が上向くこともあります。その両者が狙える一石二鳥の方法に助成金の活用があります。
飲食店経営者で、個人事業主でも利用できるのが、厚生労働省のキャリアアップ助成金です。
例えば「賃金規定等共通コース」では、正社員と同じ内容の業務を行う場合にパートさんにも同一の賃金を支払うことを新しく規定、適用した場合にもらえる助成金です。従業員のモチベーションが高くなると、良いスパイラルが期待できます。ほかにもさまざまなコースがありますので、厚生労働省のホームページ「キャリアアップ助成金」をチェックしてみるとよいでしょう。

資金ショートの予防には資金の動きを常に把握しておくこと

資金繰りで困らないようにするために大切なことは、日ごろからお金の流れをきちんとつかんでおくことです。月に一度は棚卸しをし、月ごと、週ごとの収支を把握しておき、各経費の支払日も予定しておきましょう。できれば、前述の日繰り表をふだんから使用するようにしておくと、資金が目減りしていることや、ショートしそうなことも早くに知ることができるので、切羽詰まる前に対処することが可能です。日繰り表はエクセルで簡単に作成できますので、ぜひ利用しましょう。

参考:
キャリアアップ助成金|厚生労働省
現金商売の資金繰りのコツ|佐藤修一公認会計事務所