飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店店舗の「譲渡」と「売買」とは?

飲食店閉店の検討を始めると、店舗の「譲渡」や「売買」という言葉に行き当たります。せっかく開店、経営してきた店なので、ただ店じまいするのではなく、「譲渡」や「売買」で売却益が得られればうれしいものです。経営不振に陥っていても、場合によっては、損失ゼロで事業を撤退することも可能でしょう。今回は、店舗の譲渡に焦点を合わせてご紹介します。

「譲渡」と「売買」の違いは?

「売買」は民法第555条において、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」とあります。財産権を移転する代わりに、代金が支払われるということで、理解しやすい考え方でしょう。
「譲渡」と「売買」には「譲渡契約」も「売買契約」も名称による違いはなく、名称よりも契約内容にどのようなことが書かれているかが、取引する際には重要となるでしょう。

飲食店店舗の閉店を考える事情とは?

ここで、飲食店の事業主が閉店を考える事情をいくつか見てみましょう。

運転資金が尽きる

閑散期に入り、赤字の月が続いたとしても、家賃や仕入れ、人件費などの資金繰りがうまくいっていれば、倒産する必要はありません。開業直後の黒字転換までに必要な運転資金の見込みが甘かったり、あるいは経営不振が長く続いたりで、運転資金が底を突きそうになると閉店することを検討しなければならなくなります。

体調不良

特に個人経営の場合には、経営者が健康であることが順調な経営に欠かせません。黒字経営が続いていたとしても、経営者が体調不良に陥り、店を切り盛りすることが難しくなり、代わりの者が見つからない場合には、閉店を余儀なくされることがあるでしょう。

後継者が見つからないまま引退

現在、個人経営の飲食店の経営者の年齢層は比較的高いため、黒字経営の繁盛店であっても後継者難で閉店してしまうケースが少なくないようです。
飲食店閉店に関しては、こちらもご参照ください。→「飲食店閉店理由には何がある?閉店を考慮すべき前兆は?」

譲渡の種類

店舗の譲渡は、その内容によっていくつかの種類に分けられます。
造作譲渡
店の営業権や経営権などの権利譲渡とは関係がなく、店の内装や厨房機器等の造作を次のテナントの借主に売り渡すことです。「居抜き売買」や「店舗売却」とも呼ばれています。

事業譲渡

事業の一部、あるいは全部を譲渡することです。ただし、債権や債務が自動的に移転するわけではありません。

株式譲渡

株式の一部、または全部を売却することです。個人事業主ではなく、法人企業の場合の選択肢のひとつになります。経営者自身が株主である場合には、株式の売却益は経営者個人のものになります。債権や債務は自動的に引き継がれます。

譲渡、売買のメリット

造作譲渡、事業譲渡、株式譲渡に分けて、それぞれの譲渡のメリットをご紹介しましょう。

造作譲渡のメリット

原状回復のための工事費を大きく削減することができます。タイミングよく譲渡することができれば、空家賃期間を短縮することも可能です。また、造作一式の売却益を手にすることができます。
事業譲渡のメリット
事業譲渡では、将来的な収益力として営業利益の3~5年分を加算して事業価値が導き出されることが多いため、大きな譲渡益が現金として得られます。

株式譲渡のメリット

株式をすべて売却する場合には、すべての資産が移動することになります。したがって、売却益の相場も事業譲渡よりも高めになります。また、会社を存続させることができ、店名や社名を残せるという点で、後継者難で手放すような場合にも大きなメリットになるでしょう。
店舗譲渡については、こちらもご参照ください。→「飲食店、閉店するなら店舗譲渡を検討しよう」

譲渡後、廃業するための手続き

それでは、個人事業主が事業を譲渡後、廃業するために行わなければならない手続きについても見てみましょう。

廃業届

「個人事業の開業・廃業等届出書」の廃業に丸をつけて、所轄の税務署に提出してください。あわせて、都道府県税務署にも廃業届を出します。

事業廃止届出書

消費税の課税事業者、あるいは課税事業者であることを選択しており、ほかに不動産所得のような課税売上に当たる所得がない場合には、「事業廃止届出書」を提出してください。提出期限は廃業した日から1ヶ月以内です。

青色申告の取りやめ届出書

青色申告を行っており、今後継続しない場合には「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を所轄の税務署に提出してください。青色申告を取りやめる年の翌年の3月15日が提出期限です。

所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

以下の状況に当てはまる場合には、所轄の税務署長宛てに予定納税額の減額の申請を行うことができます。

  1. その年6月30日の現況による申告納税見積額が予定納税額の計算の基礎となった予定納税基準額に満たないと見込まれる場合
  2. その年10月31日の現況による申告納税見積額が既に受けている減額の承認に係る申告納税見積額に満たないと見込まれる場合

(国税庁の「[手続き名]所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続き」から引用)
第1期分と第2期分の減額申請は、その年の7月1日から15日までの間に提出する必要があります。第2期分のみの減額申請については、その年の11月1日から15日までの提出が求められています。
申請の際には、申告納税見積額の計算の根拠となる書類の提出も求められますので、用意しておきましょう。

譲渡にまつわる注意点

店舗や事業の譲渡に関して気を付けるべき点をいくつか挙げておきましょう。

  • 親族間では、無償での事業譲渡が行われることがあります。無償であっても、あとあとのトラブルを避けるために事業譲渡契約書を交わすようにしましょう。また、無償であっても所得税や贈与税がかかる場合があり、有償譲渡の方がよいこともあります。公認会計士といった専門家によく相談するとよいでしょう。
  • 自己破産申請を行う予定であれば、事業譲渡が否認されないよう、譲渡のタイミングを調整する必要があります。
  • 造作譲渡の場合には、具体的に何を含めるのかについて、売り手側と買い手側の認識にずれが生じないように、契約書に必ずリストを添付することを忘れないようにしましょう。また、リース物件は造作譲渡の対象にはできないので、明確に分けておき、別に対応しておく必要があります。
  • 事業譲渡であれ、造作譲渡であれ、買い手側に虚偽の情報を伝えないようにくれぐれも気を付けてください。

撤退を検討するなら早めに相談がおすすめ

譲渡、売買は、買い手探しから始まり、さまざまな交渉を重ねねばならないため、ときにはかなりの時間を要します。そこで、閉店、事業からの撤退を考えるのならば、早めに専門事業者に相談することをおすすめします。実績のある優良な専門事業者であれば、上質の買い手探し、公平な契約書作成、煩雑な手続きの代行など、個人ではなかなか難しいことも円滑に執り行ってくれるでしょう。
参考:
飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策|厚生労働省
[手続名]個人事業の開業届・廃業届出等手続き|国税庁
[手続名]所得税の青色申告の取りやめ手続き|国税庁
[手続名]所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続き|国税庁