飲食店舗の移転・閉店・撤退に関するコラム詳細

飲食店閉店理由には何がある?閉店を考慮すべき前兆は?

せっかく開業した飲食店も、閉店せざるを得ない状況に陥ることがあります。今回は、飲食店経営の悩みから閉店の状況、閉店の前兆までご紹介します。

飲食店の経営は難しい?

中小企業庁の「中小企業白書」によれば、「宿泊業、飲食サービス業」の9割近くが小規模事業者となっています。小規模事業者のなかで業種別に1年間の売り上げを比較すると、「卸売業、小売業」の売り上げが約27%と最も大きく、「建設業」約25%、「製造業」約20%と続きますが、「宿泊業、飲食サービス業」は3.4%を占めるにすぎません。
さらに、業種別に見た従業員1人当たりの1年間の売上高は、「卸売業、小売業」1,494万円、「建設業」1,282万円、「製造業」1,139万円等に対して、「宿泊業、飲食サービス業」は276万円と、従業員が多い業種のなかで最少のレベルを示していました。
「宿泊業、飲食サービス業」では、他業種に比べて大きな売り上げを挙げることが難しいことが分かります。

飲食店経営者の頭を悩ませているのは?

厚生労働省の「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」によれば、収益悪化につながる問題として約60%の経営者が挙げているのが「原材料費の上昇」です。続いて、「客数の減少」約50%、「水道・光熱費の上昇」約45%、「施設・設備の老朽化」約37%、「人手不足・求人難」約33%となっています。
個人経営に限ると、経営上の課題のトップには「原材料費の上昇」約54%を抑えて「客数の減少」約63%という結果から、個人事業では集客がより大きな課題となっていることが分かります。

経営課題は開業年数とともに変化?

経営課題が、開業後の年月とともに変わっていくかどうかについても見てみましょう。日本政策金融公庫国民生活事業から融資を受けた、さまざまな業種の新規開業企業を、5年間にわたって追跡した「新規開業パネル調査」の結果から、経営課題に対する回答をご紹介します。
初年度は約43%の事業者が「顧客開拓・マーケティングがうまくいかない」を挙げ、約24%が「経費(人件費・家賃・支払利息など)がかさんでいる」を、約21%が「受注単価・販売単価が安い」、約18%が「資金繰りが苦しい」を挙げていましたが、この4項目は年月とともに低下する傾向が見られました。
それに対して、年月とともに上昇傾向が見られたのが「従業員の人数が不足している」「必要な能力を持った従業員を採用できない」「従業員をうまく育成できていない」という人材に関する悩みでした。

飲食店業は?

一般的には、開業当初は集客や資金繰りなどに悩みが集中しており、経営が安定化してくるにつれ、人材確保に悩みがシフトしていく様子がうかがわれます。
ただし飲食店では、厨房機器や排気・排水施設などの設備費が大きく、開業後も固定費によって利益が出しにくく、年数を経ても老朽化による設備投資を余儀なくされる場合があることから、開業から数年たっても集客と資金繰りが最も大きな経営課題であることも珍しくはないと推察されます。

飲食店の閉店理由

上記のことから、飲食店閉店の理由には、まず「資金繰りの悪化」が挙げられます。
また、前出の「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」によれば、個人経営の経営者の年齢層は「60~69歳」が29%、「70~79歳」が26%を占めており、閉店理由に「健康上の理由」「後継者難」も挙げられるでしょう。

こんな「閉店の前兆」には要注意

それでは、閉店間近であることが認識できるような前兆について見てみましょう。
以下に挙げるように、経営不振であることが目に見えて分かる兆候というものがあります。

  • お客様の来店数が0人の日がある
  • 家賃の支払いが遅延する
  • 従業員を減らした

ここでは、経営者本人が認識しづらい前兆についてもご紹介しましょう。以下のような状況にある場合には、いずれお客様の足が遠のき、経営不振に陥る可能性があるでしょう。

ずさんな管理

  • トイレや玄関マットなどを含めて、店内の掃除が行き届いていない
  • 調味料やナプキンのトレーがある場合に、それらのメンテナンスが行き届いていない
  • 従業員に覇気がなく、やる気がないのが明らか
  • 設備の故障を放置している
  • 料理が多すぎたり少なすぎたりとポーションが安定しなかったり、オーバーポーションが日常的になったりなど、原価管理に注意が払われていない

これらは、人員不足による忙しさ、あるいはストレスなどで経営へ熱意が下がったからか、さまざまな面での管理がおろそかになっている状態とも言えます。

集客対策を行っていない

飲食店業は、経営が軌道に乗ったとしても、常に集客を考えていかねばならない業種です。定期的に以下の項目をチェックすることで、お客様のニーズと提供するサービスがマッチしているかどうかを確認しながら、新キャンペーンや新メニューの開発などに取り組んでいかなければなりません。

  • 近隣の街や人の流れ、ホームページへの訪問やグルメサイトの活用率の変化
  • 来店するお客様層の変化
  • 看板メニューや他メニューの売れ行きの変化

しかし、業務管理がずさんになるとともに、集客対策もおろそかになる場合が少なくありません。メニュー別の売り上げや原価率などの分析をせず、看板の掛け替えや新看板の設置などで安易にすませようとするケースもあります。

小さなトラブルが頻発

さまざまな点においての余裕がなくなってくると、小さなトラブルが発生しやすくなります。

  • オーダーミス、売り切れ、メニューや価格の表示ミスが起きる
  • 配膳ルールが崩れたり、料理提供に時間がかかったりする
  • 近隣の店の看板の位置やビラ配りなどにクレームをつけたくなったり、実際にクレームをつけたりする

閉店の検討は早めに

前出の「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」では、今後の経営方針として、約61%が「食事メニューの工夫」を、約55%が「接客サービスの充実」、33%が「価格の見直し」を、約25%が「広告・宣伝等の強化」を挙げています。
実施しているサービスでは、「独自メニューを提供している」約56%、「地産地消の食材を意識したメニューの提供をしている」約45%、「割引券や特定日等の価格サービスをしている」約39%、「インターネットの情報サイト等を介した割引サービスをしている」約32%、「子供用等メニューの工夫をしている」約28%と続きます。なかには「高齢者や身体の不自由な方に介助等を行っている」や「カロリー・塩分濃度・食物アレルギー物質の有無等を表示している」などのサービスを実施しているところもあります。
しかし、これらを参考に経営方針を練り直したとしても、抜本的な解決につながらない可能性がある場合には、資金に余力があるうちに閉店することを検討するのもよいでしょう。

ときには英断も必要

営業している飲食店を閉店させるためには、労力もコストもかかるため、なかなか決断ができないまま月日を過ごしてしまっている経営者もいるかもしれません。しかし、資金的に余裕のあるうちに、閉店も視野に入れて、閉塞状況の打開を試みましょう。固定費を低くするために、思い切って小規模な店舗に移転して心機一転を図るという手もあります。その際には、コストを最小限に抑えるために、居抜きでの店舗の売買を考慮するとよいでしょう。現在では居抜き物件専門の業者もあるため、無料査定を利用してみるのもおすすめです。
参考:
小規模事業者の構造分析|中小企業庁
2011年開業企業を追跡した「新規開業パネル調査」の概要|日本政策金融公庫
飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策|厚生労働省