データから見た飲食店経営の現況、廃業率は高い?
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済は、国内の外食産業市場の現状調査結果において、ファミリーレストラン、喫茶などのカテゴリーの市場規模は縮小すると予想しています。飲食店を経営していると、閉店廃業の文字が頭をよぎることもあるでしょう。今回は、飲食業にまつわるさまざまなデータをご紹介しますので、自店舗の将来について考える参考にしてみてください。
「宿泊業・飲食サービス業」事業所の現状
総務省・経済産業省の「経済センサス-活動調査(確報)産業横断的集計結果の概要」から、「宿泊業・飲食サービス業」の状況を見てみましょう。
事業所数は微減
日本の総事業所数は約557.8万事業所、4年前の約576.8万事業所から微減と言えるでしょう。産業大分類別に見ると、事業所数が最も多いのは「卸売業,小売業」約135.5万事業所。4年前の約140.5万事業所から3.6%の減少です。減少幅が19.0%と最も大きかったのは、「鉱業,採石業,砂利採取業」である約2,300事業所から約1,900事業所でした。「宿泊業,飲食サービス業」は、「卸売業,小売業」に次ぐ事業所数の多さであり、約71.1万事業所から約69.6万事業所と2.2%の減少がありました。
個人経営が多い
「建設業」の企業等数に占める法人の割合は67.1%、個人経営は32.9%です。「情報通信業」になると、法人が94.9%、個人経営が5.1%となります。「卸売業,小売業」は法人50.1%、個人経営が49.9%と半々です。それに対して、「宿泊業,飲食サービス業」の法人の割合は19.1%、個人経営が80.9%と、圧倒的に個人経営が多いことが分かります。
飲食店の実態について
次に、厚生労働省医薬・生活衛生局による「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」から、飲食店の1日平均客数と平均単価を見てみましょう。自店と比較してみてください。
1施設当たりの1日平均客数
個人・法人を問わず全体平均は183.0人ですが、店舗の立地別にみると、「工場・オフィス街」で292.9人、「商業地区」で148.7人、「住宅地域」で110.0人となっています。営業形態別でみると、「食堂・レストラン」で189.7人、「専門料理店(和食系)」128.7人、「専門料理店(和食系以外)」97.9人、「居酒屋(酒類の提供が主)」88.0人となっていました。
1施設当たりのお客様1人平均料金単価
個人・法人を問わず全体平均は2,134.2円ですが、飲食店が個人経営の場合には1,736.2円、株式会社の場合には2,240.7円、有限会社の場合には2,159.7円となっていました。
立地別に見ると、「商業地域」で2,712.1円、「工場・オフィス街」で2,369.6円、「商業地区」1,827.0円、「郊外」1,550.6円でした。
営業形態別では、「居酒屋(酒類の提供が主)」3,886.4円、「専門料理店(和食系)」2,763.9円、「専門料理店(和食系以外)」2,583.9円となっていました。
飲食店の廃業率は?業種別に見た廃業率とその動向
株式会社帝国データバンクの「第10回:全国「休廃業・解散」動向調査」によれば、休廃業・解散の総数は、ここ10年間で約2万4千件から約2万7千件までの間を行きつ戻りつしている状態です。
次に、業種別の廃業率を見るために、日本政策金融公庫国民生活事業の融資を受けて開業したと想定される企業を5年間継続調査した結果に目を向けましょう。
最も高い廃業率を示した業種は「飲食店・宿泊業」18.9%でした。次いで廃業率の高い順に業種を見ていくと、「情報通信業」15.8%、「小売業」14.5%、「教育、学習支援業」12.5%、「卸売業」11.5%と続きます。廃業率の低い方から見ると、「不動産業」4.3%、「製造業」5.0%、「医療、福祉」5.5%、「事業所向けサービス業」6.0%、「個人向けサービス業」6.1%、「建設業」6.6%と続きます。
飲食業界は廃業率が高いといううわさは、根拠がないというわけではないようです。
廃業率の高さの原因
総務省・経済産業省の調査によれば、小規模事業者全体での比率において、「卸売業、小売業」の約23%の次に「宿泊業、飲食サービス業」約14%が続きます。「宿泊業、飲食サービス業」内では、小規模事業者の割合が87.3%、中規模企業は12.6%とのことです。経営規模が小さいと、不調時を乗り切ることが難しい場合があるため、小規模事業者が多いことが廃業率の高さにつながっていると考えられます。
また、厚生労働省の調査では、飲食店経営者は60歳以上が約55%を占めます。特に個人経営の場合には、70歳以上の経営者が約26%を占めており、近年の後継者難から、経営者が高齢化していることも廃業率の高さにつながっていると考えられます。
飲食業界の傾向と今後
飲食業界での存続を考えるならば、市場の動向を押さえておく必要があるでしょう。そこで、考慮に入れたいポイントを3つご紹介しますので、立地や客層を鑑みながら、自店の将来性や方向性について検討してみてください。
食に対する意識
日本政策金融公庫農林水産事業の「消費者動向調査」では、「健康志向」が45.7%とトップを占めています。過去5年間の推移を見ると、上昇傾向にあると言えるでしょう。次点が35.3%の「経済性志向」、過去5年間ほぼ横ばい状態です。減少傾向が見られたのが「手作り志向」です。5年前の22.8%から17.8%へと少しずつ毎年低下しています。それに対して、ここ2年で急上昇したのが「美食志向」です。5年前の10.0%から15.5%への伸びを示しています。「手作り志向」の減少と「美食志向」の上昇は、飲食店経営者にとっては朗報と言えるでしょう。ただし、ターゲットのお客様層によっては「健康志向」を重視することが求められるかもしれません。
訪日外国人旅行者の急増
訪日外国人旅行者は5年間で約3倍となっています。電気製品、化粧品、医薬品などの大量購入がニュースになっていますが、忘れてはならないのが、滞在中には飲食にもお金が投じられるということ。1人当たりの宿泊代45,471円や買い物代53,278円に劣らず、飲食費も32,140円使われているというデータがあります。今後も増加すると見られる訪日外国人旅行者の間で、どのような業種・業態の外食が流行するかが、飲食店経営に大きく影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
大手チェーン店化
前出の「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」では、飲食店の事業所数は、10年余りの間に約80万件から約61万件へと減少していますが、従業員数は約43万人から約42万人と減少率が少ないこと、大手チェーン店100社の市場占有率が19年間で13%から23%へ伸びていることから、一般的に「寡占化が進まず、中小のプレーヤーがひしめく」とされている飲食業界においても、大手チェーン店化が進みつつあるとの解釈が述べられています。大手チェーン店の動向は今後の飲食業界の流れを決めるひとつのカギになるかもしれません。
廃業を決めたならば損失の少ない方法で
日本政策金融公庫総合研究所「250万円未満の少額開業の実態」では、開業費用が250万円未満の企業とそれ以外の企業を比較しています。少額開業者の中の業種別の割合を見たものでは、「小売業」において13.8%、「医療・福祉」13.4%、「建設業」12.0%と並ぶのに対して、「飲食店・宿泊業」は4.7%となっており、それなりの開業資金が必要であることがうかがえます。宿泊業はもちろんのこと、飲食店の開業も物件取得だけではなく、内装や厨房設備などにコストがかかるからでしょう。
立地や業種によってはかなりのコストをかけた内装も、廃業となると原状回復工事の対象となり、相応の出費が必要となります。従って、廃業を決意した際には造作譲渡(居抜き売却)を検討し、廃業コストを抑えるようにすることをおすすめします。まずは居抜き物件専門の業者に相談してみるとよいでしょう。
参考:
拡大が続く外食産業の国内市場を調査|株式会社富士経済
平成28年経済センサス-活動調査(確報)産業横断的集計結果の概要|総務省・経済産業省
飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策|厚生労働省
第10回:全国「休廃業・解散」動向調査|株式会社帝国データバンク
2011年開業企業を追跡した「新規開業パネル調査」の概要|日本政策金融公庫
消費者動向調査:食の志向|日本政策金融公庫
産業春秋/訪日外国人の急増理由|日刊工業新聞
250万円未満の少額開業の実態|日本政策金融公庫